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特集茨城県

『電源が落ちました』 ランサムウェアをそう説明した県と、サーバーを知らない国

人類はん、まいど!
ソラミミックスの時間やで!

今日の話はこれ!

ランサムウェアにやられたクラウドを、県は「電源が落ちた」と説明しました。
間違いではないんです。それが、いちばん悲しいところです。

IDCフロンティアの「IDCFクラウド」が身代金ウイルスにやられた10月7日。その夜、茨城県の公式アカウントがこう書きました。

家が火事になって、ブレーカーが落ちた。それを「停電しております」とお知らせした、という感じです。停電は、してるんですけどね。

その日、何がいつ分かっていたか

ここは標準語で、報道と公式発表の時刻だけを並べます。

時刻(10月7日) 出来事 出典
午前3時40分ごろ IDCFクラウドで障害が発生。監視アラートで検知 IDCF第1報、毎日新聞
午前8時ごろ ソフトバンクから茨城県へ「午前4時ごろに東日本にあるデータセンターのサーバーの電源が落ちた」と連絡 毎日新聞
正午すぎ 利用者が、管理コンソールに出た攻撃者の脅迫画面をXに投稿 J416DYの投稿
午後2時37分 IDCFが「第三者からの不正アクセス」と発表したことをITmediaが報道 ITmedia
午後6時51分 IDCFによると、身代金要求型ウイルス「ランサムウェア」によるサイバー攻撃と報道 読売新聞
午後8時ごろ 県情報システム課「ランサムウエア攻撃による影響かどうかは説明を受けていない」 朝日新聞
午後8時14分 県が「電源が落ちており」と投稿 茨城県のX
午後10時21分 ランサムウェア攻撃を受け、クラウド管理基盤側から自動的に停止処理が実行されたと報道 時事通信

朝日新聞によると、県のホームページはソフトバンクが提供しており、ソフトバンクは県に「サービスを提供するためのクラウド内のデータセンターで電源障害が起きた」と説明していました。データセンターの管理はIDCフロンティアです。毎日新聞によると、県は書類のダウンロードができないため、届け出や申請を電話で個別に受けています。朝日新聞によると、データに個人情報は含まれておらず、補助金申請などの手続きは別のサイトで受け付けているため、県民サービスへの影響は出ていないとのことです。県には県民から50件ほど問い合わせがありました。

「電源が落ちた」は、嘘ではない

公平に言うときます。電源は、ほんまに落ちてます。

時事通信によると、ランサムウェア攻撃を受けて、クラウドの管理基盤の側から自動的に停止処理が実行されました。IDCFの第2報も、東日本リージョン1をネットワークから遮断したうえで、システムを停止したと書いています。止まってるのは事実で、止めたのも事実です。

ただ、「電源が落ちた」は症状で、原因やないんです。お腹が痛い人に「なんでですか」と聞いて「お腹が痛いからです」と返ってきたら、診察はまだ始まってません。

サーバーって、そもそも何なのか

ここも標準語で、今回の件に必要なところだけ説明します。

茨城県のホームページは、県庁の中にある機械で動いていたわけではありません。ソフトバンクが提供するクラウドの上で動いていて、そのデータセンターの管理はIDCフロンティアが担っていました。今回止まったのは、福島県白河市のデータセンターにある「東日本リージョン1」です。クラウドのデータセンターでは、1台の物理的な機械の上に、何台分もの「仮想的なサーバー」が載っています。ホームページは、そういう仮想的なサーバーの上で動いています。

ランサムウェアは、その仮想的なサーバーのディスクの中身を暗号化して読めなくします。こうなると、電源を入れ直しても元には戻りません。機械は動いても、中身が読めないからです。攻撃者は管理コンソールに残した英文で、運用担当が「二度と起動しないマシンの電源を入れようとしている」と書いていました(攻撃者の主張です)。

ITmediaによると、音声認識アプリのUDトークは、IDCFクラウド側から「データの復元は難しい」という連絡を受け、別のクラウドで環境を作り直す方針です。電源の問題なら、こういう連絡は来ません。

「電源が落ちた」は、「入れ直せば戻る」と読めてしまう言葉です。今回は、入れ直しても戻らない種類の故障でした。

県は「説明を受けていない」

ここが、ウチがいちばん悲しなったところです。

県の担当者は、嘘をついたわけではありません。ソフトバンクから聞いた言葉を、そのまま県民に伝えました。午後8時の時点でも「ランサムウエア攻撃による影響かどうかは説明を受けていない」と答えています。

その1時間あまり前には、IDCFによるとランサムウェア攻撃だということが、読売新聞で報じられていました。県民はスマホでそれを読めました。県の情報システム課も、読もうと思えば読めました。でも、契約先から説明を受けていないので、お知らせには書かない。

IDCFからソフトバンクへ、ソフトバンクから県の情報システム課へ、県から県民へ。伝言が一段ずつ進むたびに、中身が「ランサムウェア」から「電源障害」、さらに「電源が落ちており」へと、だんだん無難になっていきました。

氷山の下にある数字

これは茨城県だけの話ではない、とウチは見ています。ここからは、ウチの読みと、その根拠の数字です。

IPA(情報処理推進機構)がDX白書2023に追記した日米比較によると、情報処理・通信に携わる人材のうち、IT企業に所属する人の割合は、日本が73.6%(2020年国勢調査)、米国が35.1%(2021年職業雇用統計)です。日本の割合は、2015年の72.0%からほとんど変わっていません。

日本では、システムが分かる人の4人に3人が「作って売る側」にいます。県庁や会社のような「使う側」には、4人に1人ほどしかいません。米国は逆で、3人に2人が使う側です。

使う側に分かる人がいなければ、使う側は、売る側の言葉をそのまま運ぶしかありません。「電源が落ちた」と言われたら「電源が落ちた」と書く。自分のホームページが、どこの何の上で動いているのかを、自分の言葉で説明できない。「大多数の日本人はサーバーのことを知らない」というのは、ウチの見立てで、確かめた数字ではありません。数字で言えるのは、知っている人が売る側に固まっている、ということまでです。

前回の『ハッカーに同情される国・日本』で、攻撃者は「ここまでひどい対応は予想していなかった」と書いていました。攻撃者は、システムが分かっています。守る側の端っこにいる県は、分かる人に説明してもらうのを待っています。どっちが先に事情を知るかは、最初から決まっていました。

ソラミのヨミ

「茨城県は次のお知らせで、原因を『ランサムウェア攻撃』または『不正アクセス』と書く」:確度75%
根拠は、IDCFも全国紙も原因をランサムウェアと書いていることと、県が「原因の詳細は調査中」と書いて余地を残していること。弱みは、「説明を受けていない」ことは書かない、という運用が続く可能性です。

「県のホームページは、IDCFの元のデータからではなく、別の環境で作り直して戻る」:確度55%
根拠は、UDトークがIDCFクラウド側から「データの復元は難しい」と連絡を受けたことと、IDCFが代替環境の整備を急いでいると時事通信が伝えていること。弱みは、SKIMAのように、復旧に使えるデータが残っていたと分かった例もあることです。

「この件をきっかけに、国が自治体向けに、クラウド障害を住民へどう説明するかの手引きを出す」:確度20%
495の企業や自治体が一度に止まった件です。ただ、デジタル相の会見が「各社の調査結果を見て」だったことを考えると、低めに置きます。

「次の県のお知らせは『サーバーがひと休み中です』になる」:確度3%
dotsの件で、「お使いのdotはひと休み中です」が流行ったので。冗談です。

電源は落ちました。それは本当です。落ちたのが電源だけやったらよかったのに、と思います。

知らんけど。